Vol.1/美容業界の常識は社会のヒジョーシキ!?
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サロンオーナー必見!
須多井 リスオ(スタイ リスオ)
小尾奈 サロヒコ(オオナ サロヒコ)
赤出 ミーコ(アカデ ミーコ)
秋田センセイ
ビューティー
世界一の高齢化社会といわれる日本において、親の介護は誰にでも訪れる可能性があります。家族の介護をしなければならないスタッフは、休みを取得する権利があります。スタッフから申し出があった場合、オーナーはスタッフに休みを与えなければなりません。こうした介護のための休みには育児・介護休業法で定められた「介護休業」と「介護休暇」の2種類があります。
それぞれ詳細は「POINT2」以降で説明しますが、「介護休業」と「介護休暇」の大きな違いは、「介護休業」は長期間にわたって取れる休みで、「介護休暇」は単発の休みのことです。
両方に共通するのは以下の内容です。
●要介護状態にある対象家族の介護のために取れる休みであること。
●対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子(法律上の親子関係がある子(養子含む)のみ)、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母。以前は祖父母、兄弟姉妹、孫については「同居かつ扶養していること」が要件でしたが、平成29年1月1日の法律改正により「同居・扶養要件」が廃止され、別居・扶養していなくても介護休業が取れるようになりました。
つまり、スタッフの夫や妻、子ども、自身の両親と配偶者の両親は同居していなかったり、扶養していなくても対象家族となります。一方、祖父母、兄弟姉妹、孫の場合は、同居していて扶養していないと「介護休業」や「介護休暇」を取得する対象にはならないということです。
スタッフから申し出があり、かつ要件を満たしている場合、スタッフに「介護休業」や「介護休暇」を取らせることはオーナーの義務。ですが、その期間に給与を支払う義務はありません。有給にするか無給にするかはサロンの考え方によって異なります。雇用保険に加入しているスタッフは一定の条件に当てはまれば、「介護休業」期間中に受け取れる給付があります(POINT3参照)。
Vol.12で紹介した育児休業の場合、子どもが1歳になる時期は明確なので取得する時期も決まっています。しかし介護の場合、対象家族がいつからどれくらいの期間、何度介護状態になるかは定かではないため、「介護休業」の制度はやや複雑です。
●取得できる回数:要介護状態にある対象家族ひとりにつき、3回まで
※2017年1月1日から改正されています。
●取得できる日数:対象家族ひとりにつき、通算して93日まで
例)あるスタッフの介護休業の取得方法
①父親が要介護状態から一時回復し、再び要介護状態になった場合
⇒❶の介護休業を取って一度職場復帰した後でも、93日から❶の期間を差し引いた日数であれば介護休業が取れる。
②父親の介護をした後に、母親の介護が必要となった場合
⇒対象家族が異なるので、父親の介護で93日休んだ後でも、母親の介護で93日まで取得できる。
育休中のスタッフが育児休業給付金をもらえるのと同様に、介護休業中のスタッフにも「介護休業給付金」が支給されます。介護休業給付金をもらうための要件は以下の通りです。
●条件は?⇒雇用保険に加入しているスタッフが、休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上ある完全月(過去に基本手当の受給資格決定を受けたことがある方については、その後のものに限ります)が12カ月以上あること。
●誰が払う?⇒ハローワーク。
●対象期間は?⇒介護休業を取得している期間(休日も含む)。
●支給される金額は?⇒休業開始時の賃金日額×支給日数×67%
例)月給23万円のスタッフの場合
介護休業開始時賃金日額=23万円×6カ月÷180日=7,666円
7,666円×30日×67%=154,086円/月
※支給の単位はすべて「30日」として計算します。
*支給額には上限があります。
●オーナーがすることは?⇒申請書を該当スタッフに渡し、スタッフが必要事項を記入した申請書と確認書類を受け取り、管轄のハローワークに提出します。
※ただし、介護休業の給付には細かく例外が定められているため、詳しくはこちらをご覧ください。
「介護休業給付金」の条件は、介護休業を取得できる資格があることと、雇用保険に入っていること。パートでも「POINT2」でお伝えした介護休業を取れる条件に当てはまっていて、Vol.6でお伝えした雇用保険に加入していれば支給されます。
「介護休暇」は「介護休業」とは異なり、介護が必要な家族に対してではなく、スタッフ自身につき取れる日数が決まっています。
●取得できる日数:1年度において5日まで。ただし、介護や世話をする対象家族が2人以上いる場合は10日まで。
また、「介護休業」が要介護状態にある対象家族の介護のために取れる休みであることに対し、「介護休暇」は介護だけでなく「世話」も含まれます。「介護休暇」は単発で取得する休暇で、「介護休業」のような「介護休業給付金」はありません。有給か無給かはサロンごとの就業規則によって異なります。
期間を定めて雇用しているパートでも原則「介護休暇」を取得できますが、日々雇い入れられる者は除かれます。また、以下の労働者について「介護休暇を取得することができないこととする」という労使協定があるときは、事業主は「介護休暇」の申し出を拒むことができ、拒まれた労働者は「介護休暇」を取得することができません。
・その事業主に継続して雇用された期間が6カ月に満たない労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
次号では、正社員、パートなど、さまざまな雇用形態の違いについてお伝えします。
監修
特定社会保険労務士
秋田繁樹さん
プロフィール:
社会保険労務士法人 秋田国際人事総研代表。東京都社会保険労務士会所属。国内大手生命保険会社、大手企業のシステムインテグレーターなどを経て、独立開業。人事労務のスペシャリストとして、多店舗展開の美容室の労務管理や就業規則・社内規定などにも詳しく、多数の美容室の指導相談に当たっている。http://www.akita-sr.com/
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