第4章常識を疑って価値観を変えていく
「渋谷から“ヘアスタイル自由特区”に。
みんなでミラクルを起こしたい!」
高木さんから見て、現在の美容業界や美容師に思うことは?
僕はいま33歳なんだけど、よく「まだ33歳」「若手」みたいな言い方をされる。でも33歳ってサッカー選手なら引退を考えるくらいの時期でしょ。それが「若手」と呼ばれるっていう、このダサさ。美容業界って古いよなぁって思う。
それにこの業界ってウソが多いでしょ。「フェイク野郎」はいらない。たいした腕もない、売上記録もごまかして数百万とハッタリかましてるくせに、偉そうにしたり。お客さんにも、とにかくカラーやトリートメントをした方がいいと言ったり。僕だってお客さんにとって本当に必要だと思えば勧めるけど、似合わないと思ったらそう伝える。でもそうじゃなくて、何でもかんでもお金のため、自分の売上のために勧めるやつもいるんだよね。それって間違ってるでしょ。
では、世間から見て「美容師」はどんな存在になったらいいと思いますか。
医者は病気を治す人、消防士は火事から助ける人。これってカッコいい。じゃあ美容師は?と言ったら、「髪を切る人」って認識だと思うけど、これじゃ足りない。そうじゃなくて、「カッコいい・かわいいをつくる人」って認識にしたい。
美容師の使命は髪を切ることじゃなくて、お客さんのコンプレックスを魅力に変えること。料理人が単に野菜を切って焼くのではなく、どうやってよりおいしくするか考えるみたいにね。美容師はヘアスタイルを通して、その人の周りからの反応がよりよくなる「未来」までデザインすることが役割だと思う。
世間の認識を変えるには、僕一人じゃ無理なんだよね。どうがんばっても1カ月に900人のお客さんを相手にすることしかできない。でも「OCEAN TOKYO」を立ち上げたことで、それが1カ月に3000人になり、今じゃ1万人のお客さんと向き合える。スタッフたちのおかげで一歩ずつ目標に進んでる感じ。
これから実現したいことは?
今までと変わらず、目の前にいるお客さんに全力で向き合い喜んでもらいたい。でも唯一、お客さんのテンションが下がる時期があって。それが就活時期。みんな好きな髪形やカラーにしていたのに、同じような黒髪のスタイルにして、鏡を見て「はぁ…」ってため息をついている。お客さんがガッカリする姿を見たくないんだよね。
だからそういう現状を変えたい。髪の色が黒くなきゃいけないって、誰が決めたの?大昔に決めたことがいまだに、意味なく校則や社則に残っているんだよね。
少し前に、渋谷区長の長谷部さんと対談させてもらう機会があって。渋谷は日本を代表するオシャレの聖地で、うち含めてヘアサロンも多い。同性パートナー条例を制定したし、ヘアスタイルでも革命を起こしてほしいと伝えました。だからまずは渋谷が「ヘアスタイル自由特区」になって、働く人や学生のカラーも髪型も自由になったらいいなぁって。そんなの見たことないでしょ?おもしろそうじゃない?もしこれが渋谷で実現したら、他の地域にも広まるはず。そうしたらお客さんも喜ぶし、お客さんはうちに来るだけじゃないから他店の美容師もうれしい。オリンピックがある2020年までに現実のものになったら、色とりどりの自由なヘアスタイルで歩く街の人たちを見て、外国人も「なんだ、この楽しそうな街は!」って思ってくれるんじゃないかな。
10年後、「OCEAN TOKYO」や高木さんご自身は、どうなっていたいですか?
うーん、あまり先のことはわからないけど、いわゆる「美容業界」という小さい村にだけ属してることはないと思う。今の若者ってうちのモデルになることが夢っていう子もいてくれて、そうするとその子たちのために芸能事務所みたいなのを作るのもアリだよね。うちのブランド力を活かしてヘア関連に限らず商品開発をするメーカーになるのも一つの手段。美容学校の校長っていうのもあるかもしれない。
それでも髪は切り続ける。「お客さんをカッコよくする」っていう、やりたいことの基本は変わらないから。月旅行をするような未来になったら、そこでも髪を切ってみたいね(笑)。
きっと、自分がウソをつかないからだと思います。
ビッグマウスと叩かれても、言ったからにはやる。
それも、こちらの想像をはるかに越えて、やってのけてしまう。
だから「月で髪を切る」なんて夢物語みたいなことも、
高木さんなら叶えてしまう。そんな気がするんです。