第2章独自のベーシック研修
「みんながいるから乗り越えられたと、
あの時ほど思ったことはない。」
リラクゼーションサロン事業は順調に?
7店舗くらいにまで増えてくると、スタッフによるお金の持ち逃げ事件や仕事のボイコットなど、「経営者あるある」とでもいうのでしょうか(笑)。いろんな問題が起きましたね。
そのとき考えたのは、「これは会社を変えなくちゃいけない」ということ。僕が目指す会社の姿や仕事に対する想いといった「カルチャー」を会社に根付かせようと思うように。そういう想いをこれまでは伝えていなかったので、そりゃ伝わるわけありませんよね。それで半年に一度の「基礎=ベーシック研修」を始めました。
基礎研修では「お客さまにいただくお金の価値」、「僕らがつくるべき人間関係」といったことを、僕が講師となって伝えました。研修の受講対象者は、取締役からアルバイトスタッフまで全員。この研修を受けないと働けない仕組みにしました。そうしてカルチャーが浸透すると、お客さまからの評価もよくなっていったんですよ。
企業理念、カルチャーは何かを参考に?
全部、自分で考えました。僕は大きな企業に勤めたことがないから、他の会社がどうしているのかは知りません。ただ、自分自身も社員や店長の経験はありますから、彼らが望む「会社のあるべき姿」はわかりました。
当時から現在までずっと、ベーシック研修を外部に委託せずに自社でやっているのは珍しいですよね。
「こういう話をしたら、いい人材が育ったな」というこれまでの積み重ねで形にしてきた感じですね。研修をするにあたって、勉強のために自己啓発セミナーに参加したこともあります。そういうセミナーではお手本を参考にして、経営者たちがみんなと同じような理念を一所懸命につくっているんですよ。それじゃあうまくいかないなって思って、僕は全部自分で考えて、自分の言葉で伝えてきました。
カルチャーが根付くとお客さまからの評価が高まったそうですが、社員さんたちの質が向上したということですよね。
ベーシック研修を始めてしばらくして、社員も100人くらいになった頃のこと。リラクゼーションサロンの業績が好転して黒字になり、「よし、来年は10店舗くらい出店しよう」と準備を始めました。
ところがリーマンショックが起きたんですよ。それで銀行もあおりを受け、出店資金を借りるという約束を反故にされてしまったんです。でもすでに出店に向けて動き出していたので、自己資金でどうにかせねばならなくなり、黒字倒産の危機に。12月にはみんなの給料を払うのも難しいほどに追い詰められました。
もう逃げ出したい気分ですよね(笑)。でも、そうもいかないから緊急役員会を開いて、翌日には全社員にも説明しました。隠し立てせず、みんなに説明しておきたかったんです。「いま会社はかなり危険な状態で、給料も遅れるかもしれない。でも遅らせたくないし倒産も回避したい。現状の売上の130%くらいになれば、なんとかなるかもしれない」と話しました。
社員さんたちの反応は…?
会議室がシーンと静まり返りましたよ。だってその時点で12月に入っていたので、その年はあと1カ月もない状況。それで売上を130%にするって無理のある話でしょう。
僕は「これはマズいな、離脱者がいっぱいでるな…」と思いつつ会議室を出ました。そうしたら店長が5~6人あとを追って来て、「給料なんていいから、みんなで乗り越えましょう!」って言ってくれたんです。それからは、みんながとにかくがんばってくれて、結果的には売上が140%ほどになりました。「自分ひとりじゃ何もできない」なんてよく言いますが、あの時ほど心底そう思ったことはありません。