第3章個々に応じた教育システム
「夢を持ってがんばっている子を、
どうすれば支えられるのかを考えます。」
スタッフ教育についてお聞かせください。調理師をスタッフに雇って「まかない」を出したり南房総で稲を育てたりする「食育」、画家を招いてデッサンを学ぶ「美術の時間」など、ガチガチの勉強とは違った取り組みをされている点が興味深いですね。こうした教育はいつから?
表参道に「UMiTOS」を開いてから、教育的な活動を多くしていきました。本人の性格、タイプってありますよね。それを環境で超越してもらうために、一般的な技術指導だけでなく「潜在能力に問いかける教育」「感情系よりも思考系が優位になる教育」をしています。内閣府認定の、メンタルカウンセラーの資格も持っているので脳科学の先生ともよく話しています。脳科学の先生からも、よく相談されます(笑)。
忙しい日々で資格勉強、すごいですね!
産後に東京に通って大河ドラマのヘアメイクをしながら、通信教育で勉強しました。時間があるなと思って(笑)。もともとは南房総のサロンで介護美容をプラスするにあたっていろいろと勉強していて、その延長線上で、お客さまの内面もきれいにしたくて高齢の方と接するときにメンタルカウンセラーの資格も役立つかなという考えでした。
メンタルカウンセラーの資格を取っただけでなく、脳科学や心理学の先生と対談する機会で学んだりもして、いまは脳科学と心理学の考えを取り入れて、美容の現場でスタッフの管理や面接で活用できる「美容育学」をまとめているんですよ。そういうセミナーもしています。
先ほどお話にあった「潜在能力に問いかける教育」とはどういったものでしょう。
何の根拠もないのに自分の思い込みを他人に押し付けたり、それはおかしいよと指摘されてもおかしくない!と思ってしまうことありますよね。美容師って高校卒業後にすぐ美容という専門分野に入ってしまうので、人間的な幅ができにくい面がある。すると勝手に自分の感覚で怒ったり、視野が狭くなったりしてしまいます。そういう独りよがりな感覚で悲しんだり怒るのはナンセンスだから、もっと公的な視野で生きていこうよって話をするんです。朝礼や終礼で話すこともあれば、個別に話すことも。1対1じゃうまくいかないときは2対1で話してみたり。
一人ひとりとのコミュニケーションを非常に大事にしていますね。
私は人が、スタッフが大好きです。夢を持ってがんばっている子を、どうすれば支えられるのかって考えています。我が子は家に置いて店に来ているので、ある意味ではスタッフは子どもと同じ存在ですよね。我が子はいま主に体を育てる時期の年齢なので、価値観や感情を育む時期にあるスタッフにより多く時間を割いている部分があります。今後、子どもの成長段階に応じて、この比率を変えさせてもらうこともあるでしょうけれど。冷静にどちらも俯瞰で見ています。
スタッフに対する大きな愛を感じますが、その気持ちを裏切られた経験はありますか。
人間って弱いものだから、覚悟したつもりでも折れちゃうし、怖かったら逃げてしまう。それでもいいんだよってスタッフには伝えています。だけど、感情を操作できるほうが職人としてはいい。見えないものが見えてきます。自分が思う「正しいかどうか」じゃなくて「楽しいか否か」で考えたほうがいいよ、楽しいことをアウトプットして伝えたほうが建設的で賢明だよって話しています。
サロンに勤めて店長をしていたときは、センスがない子は続けられなくても仕方ないなって思っていました。でもオーナーになってからは、「匠になるのは苦しいことだから、一緒に乗り越えてあげたい」って思うようになって。たとえ能力が低くても、思ったことを相手にぶつけてしまうタイプでも、見捨てられないんです。
特徴的な教育として、「目標達成最短システム」というのもありますね。これは、具体的にどういうものですか?
売上重視タイプ、デザイン重視タイプ、プレミアム雇用という3タイプにわけて、個々の目指す姿に合わせて勤務環境や教育内容を変えていくものです。
その子の特性に応じて働き方を決めていきます。美容業界って、若くていい時期をかいつまんで働かせてしまう傾向が少なからずあると思います。でも私は、終身で、親の代わりとなって育てていきたい。そのためにどうしたら楽しく働いてもらえるのか、ベストを考えたすえのシステムです。
このシステムはやりたいことが達成できる、それも最短で成功体験ができるので、離職を考える子が出ません。美容師以外の道を新たに目指す場合もあるので、うちの離職はゼロではないけれど、社員が流動的な青山・表参道エリアとしては奇跡的と言えるくらい、みんな長く働いてくれています。
私は人と長く付き合いたいんですよ。いいときだけじゃなくて、窮地のときも関わりたい。人と人が長く付き合うには、大事な部分をおさえないと難しいものです。丁寧に、長く付き合うことを大事にしたい。そんな想いからうちは「共生」という理念を掲げているんです。