第4章美容業界に豊かな文化を
「スタッフもお客さまも。
あなたの夢を叶えるために私はいる。」
目標達成最短システムの一つである「プレミアム雇用」は、身体的な問題や子どもがいるなどの理由で一般的なスタイリストのように働けない、でも美容に携わりたいという人に応じた働き方を与えるものですよね?
そうです。ただ表参道エリアは、生産性にとても厳しい。家賃も高いので、生産性が低いスタッフを置いておけないと考える人も多いでしょう。でもソーシャルスキルが低かったり、体が不器用っていう人もいるじゃないですか。そういう方でも楽しく、自信を持って働けるようにって考えたのが「プレミアム雇用」です。その人の健康状態や事情に合わせて、秘書枠で採用したケースもあります。とても体が弱くて一般的な働き方はできない、でも美容がやりたいと決意した方の採用としては、営業中に睡眠休息タイムも用意して、個々に合う働き方をそれぞれにして9年目になります。
面接時から普通には働けないと知らされていたのに採用したんですね。普通の雇用とは違う視点を感じます。
「あなたはうちの役に立てるのか」というスタンスの面接が多いでしょうが、私は「あなたの夢を叶えるために私たちが役に立てるか」というふうに考えています。ボランティア的だと言われることもあるけれど、ボランティアとは思ってないんですよ。
この美容業界に入って、私は自分のためにさほど苦しまずに来ました。カット技術の習得も比較的早くて苦労せず、月500万の売上を得ることも大変ではなかった。ヘアメイクの道もさせてもらったし、雑誌のいいページを与えられ、美容家として書籍も出せた。悩みや大変さは山ほどありましたけど、苦労と思うことはありませんでした。
一方で、美容という職業を選んでもうまくいかず、苦しむ子はいっぱいいます。だから私は、苦しくても美容をやりたいという子の夢を叶える星の下に自分があるのかなって思っています。豊かに、文化的に、美容業が進んでいくために、たとえ体が不器用であっても楽しく働けるようにしたいんです。
とても先進的な教育、雇用に取り組んでいますが、さらに考えていることはありますか。
いま着目しているのは、女性の美容師さんがアラフォーになってから、結婚より、出産より、美容を選んだ場合にどうサポートできるか。結婚しない、子どもを産まない人が増えてきましたよね。美容の道で生きることを選択して、もっとうまくなるには表参道や青山で働きたい。でも敷居が高くてトライできない…。そういう40代のステップアップの場を作れたらって始めています。
このエリアで20代から真剣にやっていくと、15年間くらいは遊ぶ時間はまったくないほど。そのぶん実力はつくし、育ってからは時間もある程度自由になります。でもそういう人ではなくて、普通にプライベートも楽しみながら美容師を両立してきた方だと、「いまさら青山で働きたいと言うのはハードルが高い」と感じてしまう。これは女性に限らず男性もそうでしょう。うちには同業者のお客さんも多いんですが、そういう悩みを打ち明けられることは多いです。
うちの店長の大嶋はヘアコンテストのトロフィーが15個以上あるような美容オタク。ほかのスタッフもいい意味で美容界のヘンタイ、オタク的な人が多いサロンです(笑)。そういうオタクを大事にしたいし、オタクじゃないのにうちを選んでくれた人も大事にして、オタクを増やしていきたい。15年間ふわっと働いてきたなら、オタクになるには10年はかかります。でも30歳からスタートしたら40歳でオタクになれるんですよ。これって遅すぎはしない、がんばる意味はあると思います。
最後に、今後サロンとして描いている未来像を教えてください。
美容というツールを用いてマニアックに、そしてその人に応じたルックス的な提案をすることで、関わるすべての方に成功体験を最短で提供していき続けます。プライベートな領域に踏み込むという意味ではなくて、美容師としてセレクトした美容を提供するという形で関わって、運命を変え、夢さえも叶えていきたい。社会における美容の力を見せ続けていきたいですね。
「自分はまだまだですが・・・。ヘアメイクの現場で、砂原の背中をみてきた、その先輩の背中をみてきたからかもしれません」。
美容師のお母さんの背中をみて育った砂原さん。そのDNAは砂原さんからスタッフ、またその下の世代へと、きちんと引き継がれています。
長く働ける環境、そして業界をつくりたい。砂原さんのその想いも、きっとつながっていくのでしょう。