第3章専門学校とサロンの関係性
「サロンワークに使わない技術だから悪、
直結するからいい、とは思わない」
「美容専門学校で教わることは、実際のサロンワークに即していない」とよく言われます。それに対して、どのように思われますか?
僕自身は、一部同意、一部否定、という感じです。内外から言われているように、前時代的な部分はあるかもしれません。ただ、美容師は「長く続けてもらうことが大事」で、続けるうえでは、知識が必要です。サロンワークに使わない技術だから悪、直結するからいい、とは思いません。どんなに高度な技術も、目まぐるしく変化する流行のスタイルも、すべては「基本の組み合わせ」だからです。
基本は一番難しく、覚えるのにも時間がかかります。しかし一度身につければ一生忘れることなく、社会に出たとき、この基本こそが一番の武器になる。ただ、その「基本を学ぶ方法」を、いまの時代に合わせてもいいのかな、とは思います。
なるほど。ほかに業界の課題として「アシスタントの離職の多さ」があります。
様々な要因がありますが、個人的には、「専門学校を卒業して1年目の子に、ハイクオリティなものを求めすぎている」と感じます。イギリスに留学している時に、海外の美容室は技術・サービス共に荒い所が多く、それに対し日本における美容師の技術・サービス・おもてなしは、どの美容室でも非常にハイクオリティであると気づきました。ただ、そこに合わせることだけが、いい状態とは言えないと思います。
看護・自動車・介護といったほかの国家資格系の業界では1~2年目の新人は、何もできなくて当たり前です。美容業界が、新人に対して特に厳しすぎるように感じます。根本的にはお店を移籍したり、転職した方が「得」になるように思えてしまう環境ができている事が問題だと思っています。
また美容サロンオーナーのなかには、美容専門学校との関係性づくりで、悩んでいる方もいます。もし、アドバイスなどあれば。
美容業界は人材不足で、「サロンより学校のほうが、立場が上」と勘違いしている人がいますが上も下もなくフラットな関係で、“同じ美容業界の一員”だと思っています。うちの職員でも過去、横柄な態度に見えた者がいました。それについては、「サロンさんや卒業生には丁寧な対応をしましょう」と伝えています。
学校によって考え方は違いますが、企業訪問を受け付けている学校であれば、サロンと就職担当の先生が、つながりを持つことは大事だと思います。「サロンの存在を知ってもらう」という意味でも。学生って、ごく一部の有名サロンを除き、どんなサロンがあるのか全然知らないんです。うちでは、学生が先生に相談にきたら「AとBとCのサロンがあるけど、“君の好きなところ”に見学に行ってきたら?」と、本人に選ばせる言い方を、ルールにしています。先生が決めてしまうのではなく。
僕たちは「輩出する学生を、どれだけ大事にしてくれるか」という視点で、サロンを見ています。学生は、待遇面より有名サロンであることを重視したり、また待遇面を見ていたとしても“初任給”しか目に入っていないなど、知識不足であることが多い。就職してからでないと、当事者意識が出てこないんです。売り手市場すぎて、学生のうちは危機感がないのが、課題ですね。
また現状、「供給過多」というのもあります。美容室がものすごく多くて、お客さんが選び放題になっている。今後10~20年かけて、「いいサロンが残っていく」状態にしていかないと、雇用のさらなる改善は進みません。これについては、美容業界全体で動かないと、どこかに「不(ふ)」が生じてしまいます。
最後に、美容業を目指す人に向けて、メッセージをお願いします。
僕はまだ35歳、「KANBI」のトップでもないので、大変おこがましいのですが…。ただ、ひとつだけ言えるのは『美容を好きになってほしい』ということ。それが、すごく大事。これは校長も、ずっと言ってきた言葉です。
業界自体、長く働くのが難しい現状もあります。そのなかで、美容を嫌いになってしまう人もいる。それをなくしていくことが、一番の使命だと考えます。美容業を辞める人も出てくると思うし、辞めることも肯定しているけれど、「美容を嫌いになって、辞めてほしくはない」。とことん、美容を好きになってほしいんです。
もし、就職したサロンを辞めたいのであれば、再就職先を紹介することは、僕たちにもできます。でも「美容業を辞める」という選択をしたとしても、「美容師って、いい仕事だよ」とか「あのサロンいいよ」と言ってもらえるサイクルを、業界全体でつくっていきたいですね。
KANBIに入って、直紀さんは気づいたことがあります。
自身の母でもある、校長先生。
「小さい頃から受けていた母の教育と、KANBIの教えが一緒だった」と。
人にだけは迷惑をかけない。あとは自由に、自主性を尊重してくれた。
学生が「やりたい」と言ったら、全力でサポートする。学校で過ごす2年間だけではなく、そのあとに続く人生にも責任を持つ覚悟。それはまるで、「我が子に対する愛」にも等しく。
これこそが、KANBIが輝く源である。そう強く、思いました。