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第2章Z世代の離職理由

「“サロンが自分を受け入れてくれている”と、
常に実感させてあげることも大事」

髪書房/中尾さん。長年、美容専門メディアに携わり、地方を含めた全国のサロン事情に詳しい。同社の媒体は、その深い取材力に定評がある

新人スタッフが辞めてしまう理由として、どのようなものがありますか?

吉原●最近は、「もっとハイトーンカラーやデザインカラーをやりたかった」という声がありますね。面接でも「Ashさんは、そういうカラーをやっていますか?」と聞かれます。ただ、メニューはほかにもあるので、毎日それだけをやるというのは難しい。

中尾●ハイトーンカラーは、いまの世代に人気ですよね。

野嶋●でも、「それができない」と思った瞬間に辞めてしまう。半年~1年以内に辞めるスタッフは、事前に描いていたイメージと、入社後のギャップによるところが大きい。SNSでいいところだけを切り取って見ているからか、一層その傾向が強くなっているように思います。

ほかには、「一緒に働くスタッフがかなり年上の人ばかりだった」「上から押さえつけるパワーマネジメントをいまだにやっている」など。

業界全体では待遇も整ってきて、スタッフの平均年収が1,000万円というサロンも聞くようになりました。

中尾●給与を高く設定するサロンは、増えています。経営者の方は大変ですよね。単純に、経営者自身が昔よりお金を取らなくなったからだと思うので。

野嶋●報酬を上げないことには魅力ある業界にならないし、人も集まらない。かといって、平均年収1,000万円のサロンがゴロゴロあるかといえば、そんなことはなく。全国で見渡せば、ごく一部ですよね。普通にやっていたら、とても難しい。

吉原●うちが目指しているのは、トップの1割は年収1,000万円以上であること。仮に1,300名社員がいたら、そのうちの1割=130人くらい。新しく入ってきたスタッフが、そこを目指せるサロンをつくらないと、いけないですよね。

ただし、客単価が1万2,000円以上にならないと、年収1,000万円は実現できません。さらには、その単価のお客さまを固定化させる能力がないと難しい。

野嶋●7,000~8,000円の客単価だと、現場は忙しいだけで、ハッピーにはなれませんよね。アシスタントも自分についているお客さまというわけではないから、売れているスタイリストにつけばつくほど忙しく、自己効力感が高まらない。「これは自分の成果だ」と思える状態をつくっていくことが大事です。

メニュー単価というより、物販を含めた客単価。1回来店しただけで、よりもらえる仕組みにするため、美容室にまつげ・眉毛メニューの導入が進んでいます。そのほかECなどを組み合わせて、客単価が1万3,000円に到達したら、だいぶ変わるのでは?

美容専門学校の先生方から最近聞くのは、「ヘアメイク人気が高い」ということ。ヘアメイクコースを新設した学校もあります。

吉原●それは、韓国の俳優さんや、K-POP人気の影響が大きいでしょうね。

野嶋●韓流のヘアアレンジやメイクは、ここ5年くらい急激にきていますよね。

ただ、学校でヘアメイクを専攻しても「働き口」がそれほどないのでは、という懸念もあります。

吉原●昔は、有名雑誌の表紙になるモデルのヘアメイクをやりたい、というタイプが多かったと思いますが、いまは違う。プロを目指すというより、タレントさんがしているメイクを、自分や友だちにやりたい、という感覚なのでは?

美容室に就職しても、それを活かせるのはブライダルくらいしかないですよね。だから、美容室がヘアメイクのメニューを新設するなど、努力するべき。たとえば、お客さまにヘアメイクのアドバイスをしながら、アイシャドウ・チーク・ヘアアレンジと同時にきれいにしてあげる。アシスタントも稼げて、単価アップにもつながります。

サロンで働くZ世代の特徴はありますか?

吉原●クリエイティブでいえば、Z世代はヘアコンテストに出たがらない。集めるのが大変です。出ない理由を聞くと「私たちがやりたいのは、デザインカラーです」と言う。

カラー業界などが、「ハイトーンカラー賞」「デザインカラー賞」とかをつくれば、若いスタッフがもっと出るようになるかもしれません。オーソドックスなことをやっていたら、「古いよね」と言われてしまう。

中尾●コンテスト自体も、コロナ禍以降、すごく減りました。新しい、非日常のヘアスタイルをつくることでの学びはたくさんあるので、出てもらいたい気持ちもあります。

SNSで「見せる場」ができた、というのもあるのでしょうか。

野嶋●それもあるかもしれませんが、複合的でしょうね。コロナ禍でコンテストがなくなってみたら、「コンテストにそこまでエネルギーをかける必要ないんじゃない?」と。若者の意識として前からジワジワあったものが、コロナで明らかになったのだと思います。

Z世代との「コミュニケーション」で、大切なものは何だと思いますか?

中尾●Z世代のリアルコミュニケーションの特徴は、「深く・せまく」。男女問わず、本当に仲のいい何人かとだけ、すごく深いコミュニケーションをとる傾向にあります。

店舗異動も、嫌がられる。会社としては良かれと思い、いろんな経験を積ませたいと異動を考えます。でも、若いスタッフは「せっかくつくった人間関係を、またイチからやり直さないといけないの?」となる。

あと、「サロンが自分を受け入れてくれている」と、常に実感させてあげることも大事ですね。

吉原●確かに、「自分を大事にしてくれるところで働きたい」というのは、強いですよね。以前からあったけれど、昔はくわえて「そこに山があったら乗り越えたい」という気持ちもあった。いまの世代は、乗り越えたくないというか…。

非効率なことを嫌う世代なので、「山」などの苦労はいらない、という意識なのかもしれませんね。また、ホワイトな労働環境のサロンが増えてきたなか、それだと「物足りない」「ゆるい職場だから辞めたい」という現象が起きているとも聞きます。

中尾●いっとき、スタイリストもアシスタントも一斉に「早期育成」への舵が切られました。その結果、技術習得が甘くなり、デビューしてから苦労している先輩の姿を見て、「自分はしっかり学びたい」と思うケースも。かといって、「遅いデビューも嫌」というのは変わらないので、悩ましいところです。

吉原●美容業だけではなく、いまはみんな早期育成。寿司の養成学校に3カ月通ったら、ニューヨークで寿司を握って年収1,000万円とか。そういったスピード感が、若者の間では当たり前なのでしょう。

だから、美容専門学校を出ているのに、入社してからデビューまで3年かかると言われたら、「話が違う」「動画で習えるでしょ?」と思うのは、無理もない。

離職を防ぐために、サロンが意識すべきことは何だと思いますか?

中尾●人が辞めないサロンは、間違いなく「スタッフファースト」。美容業界で成長著しい企業は、ほぼ当てはまっています。

吉原●Z世代は、密なコミュニケーションを嫌がると言われているけれど、そうはいっても取らないとダメ。精神的フォローが、いちばん大事だと思います。直接対話するほか、ネット、SNS、動画、TV電話といろいろあるので、適切な方法で。

先ほど出た「入社してからのギャップ」があれば、コミュニケーションで埋めないといけない。放っておいたら、もっと離脱が加速します。

野嶋●「サビカス」という、“21世紀型のキャリア構築理論”があります。これは、一人ひとりの価値観に合った多様な教育・育成を、会社も個人も意識する必要がある、というもの。

昔のプロ野球育成みたいに全員にノックして集団指導…という感じではなく、個々の価値形成に応じて方向付けをしてあげることが大切です。手間はかかるけれど、そうすることで一人ひとりの才能を開花させ、時代が変化して社会が多様化しても活躍できる人材になる。

吉原●離職を減らしたい一方で、自分の考え方はちょっと違うのかな…と感じたことも。

アメリカの大手テクノロジー会社が、ファンドに買われて長年働いてくれた人も解雇せざるを得ない状況になったとき、ある社員の方が書いた手紙が公開されているんです。要約すると「長い間、いい会社に勤めさせてもらって幸せでした。ただ、ほかの会社にいける能力を、この会社はつけてくれなかった」という内容。

僕は、スタッフが65歳になるまで雇用して、きちんと退職金を払って老後も苦労しないようにする責任があると、ずっとがんばってきました。いつかは、老人ホームやお墓もつくろうと。

でも、いまの若い人たちは、我々の価値観とは違う。スタッフが大事である気持ちに変わりありませんが、ほかでも通用する力をつける。そして、“リリース”してあげることも、本当の親心なのかな…と考えることもあります。

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