第4章DXの先にあるもの
「美容師を、アーティストに。
価値ある仕事を創造したい」
DXを推進するのは簡単ではないと思いますが、大川さんは前職の影響ですか?
いえ、僕は普通のアナログな営業でした。専門学校時代は、あまりにもパソコンを触らなくて、よく怒られていたくらい。
今は、必要に迫られて、という感じです。ORIGAMIの美容師は、子育て中のママも多いので17時で帰りますし、有給もバンバン使ってくれます。それがよかったのかもしれません。美容師は労働集約型なので、8時間しか持ち時間がない。その8時間を、どう効率化するか、いかに収益の柱をつくるか。これしかなかったんです。
スタッフのなかには、旦那さんが転勤族という人もいます。パソコンやネットの知識を教えてあげれば、転勤先でも、何かしら仕事に役立つはず。自社内でもリモートで、映像制作、ウェディングのオペレーション、自社サイトのコラム執筆といったキャリアパスが可能です。
ちょうど先日も、スタッフの旦那さんからLINEで報告がありました。「今回、転勤はありませんでした」と。すぐにその旦那さん、スタッフ、お子さんを含めたご家族と、お祝いの食事に出かけました(笑)。
スタッフの旦那さんと、直接LINEを!?
僕は、スタッフの旦那さんも、お子さんも、全員知ってます。コロナ禍の前ですが、社員旅行には家族の方もきて、旦那さんが僕の部屋に来て話したり…。普段、飲みにいくこともありますね。
「企業は人なり」。スタッフの家族を含め、人を大切にしたい。これからも、「人ありき」でビジネスを展開していきます。
今後の広がりについて、教えてください。
すでに計画しているものはいくつかありますが、出店はそこまで積極的に考えていません。先ほどお話したように、厳選して人を採用していることもあるので…。それよりも、自分たちが「プロの集団」となり、そこから収益の柱を増やしていきたい。
現在は徳島に美容室が3店舗。スタッフのマンパワーとターゲットであるお客さまの層を考えると、フォトウェディングは案内できる数に限りがあります。今後、県外を含めたほかの美容室にも加盟してもらえれば、一気に広がる。フォトウェディングをしたい美容室は多いですが、スキル・ノウハウ・オペレーションがない。なので、運営はこちらでして、美容師さんは受注と当日のヘアメイクだけすればいい、という形も可能です。こちらは、すでに県内で数名の美容師さんがチームに加盟することになっています。さらに今後、FC展開にするかは検討中です。
美容業界全体としては、DXが進んでいるとは言えません。その現状に対して、どのように思いますか?
たとえば、ホットペッパービューティーのサロンボード(予約・管理システム)をきちんと使いこなすだけでも、DXにつながります。うちではさらに自社アプリも使っていますが、身近で活用できるものがあることに、気づけていない方も多いのでは?
僕は、美容業界に大きな可能性があると思ったので参入しました。美容に携わる人たちって、熱量が高くて、美容が大好き。こんなに仕事が好きな人たちって、なかなかいない。ただし、がむしゃらにやるのではなく、効率のいいやり方、ちょっとした工夫は必要だと思います。
美容師が持っている情熱や、情報感度の高さ。そこにDXで新しい価値観をプラスしていく。そうすることが、サービスの進化・働き方改革に繋がり、さらなる生産性の向上が期待できます。
ブライダルヘアメイクでも、結婚式場からの発注に頼り切り、技術のみの下請け精神ではいけません。そうではなく、顧客の本質的なニーズに合わせて価値を提供し、提携の結婚式場と私たち美容室がWin-Winの関係を築きながら、美容師を「アーティスト」という価値ある仕事に押し上げたい。美容業界は、自分たちで、価値ある仕事を、もっと創造できると思うんです。
『旦那さんから、「妻の店販率が課題ですね(笑)。クロージングが苦手なので、家でもアドバイスしています!」と。そのスタッフは、その後、すごく店販が伸びました。家族の方が仕事を理解して、応援してくれるのは、ありがたいですよね。だからうちは、人材が伸びるし離職率が少ない。』
大川さんのビジネスにおけるスタンスは、すべて「人ありき」。DXすべきところは、徹底的にする。一方で、DXすべきでないところは、しない。
「DX」と聞くと、いっけん無機質なイメージがあるかもしれません。しかし、それによってスタッフに幸せな時間を生み出している。そう、それこそが、DXの神髄です。