エリア特性を捉えた戦略的なサロンづくり

GiseLの特徴は、店舗ごとにエリア特性を徹底的に分析し、集客の打ち出しを変えていることだ。

天神店では、ダブルカラーやハイトーンカラーを中心としたデザイン性の高いメニューを強みに展開。若い世代の顧客から絶大な指示を集めている。

一方で博多口店では、結婚式場やライブ需要が集中する立地特性に着目。出店前からヘアセット需要を見据え、メニュー設計を行った結果、オープン初期から多くの利用客を獲得している。

また料金やクーポンも一律ではなく、店舗の成長段階や若手スタイリストの入客状況に応じて柔軟に設計。エリアや組織の状況に合わせて常に最適化を続けている。

「やらされる」ではなく、自然に動き出す組織文化

サロンによってはホットペッパービューティーのサロンページでのブログやSNSなどの投稿にノルマを設けるケースもあるというが、GiseLではスタイリストに対し、明確な投稿義務を設けていない。

それでもスタイル写真やブログ更新が活発なのは、スタッフ一人ひとりが「発信が集客につながる」ということを当たり前に認識し、実感を持って行動しているためだ。

オープン当初から空き時間を撮影に活用し、スタイルづくりや発信を積み重ねてきた文化が現在も根付いている。

会社としてその文化をサポートするため、SNS運用も個人のスキルに頼るのではなく、社外講師による勉強会などを通じて成長できる環境が整っている。

強制ではなく、「やった方が自分のためになる」という空気が組織全体に浸透していることが、継続的な集客力につながっている。

柔軟な教育制度とキャリア設計

GiseLでは毎月の社内講習に加え、東京や大阪で活躍する社外の美容師を招いた社内セミナーを定期的に実施している。

内容も決まったものではなく、カラー、カット、SNS活用など、その時々にサロン全体が抱える課題や興味に応じて柔軟に変化させている。

またアシスタントからスタイリストへの昇格も一律の試験制度ではなく、本人の成長や集客状況、店舗の状況を踏まえながら判断する仕組みを採用。

自分で集客できるスタッフには早い段階から活躍の場を与えることで、若手の成長スピードを高めている。

さらに複数店舗展開の強みを活かし、店舗異動やキャリアチェンジ、独立支援など多様な選択肢を用意。

その結果、高いスタッフ定着率につながっている。

インタビュー

GiseL様代表・大田原和久さん(写真左)

1990年生まれ、宮崎県出身。美容学校卒業後、東京のサロンで経験を積み、その後福岡のサロンにて勤務。27歳で株式会社アクアビテを設立、GiseLを立ち上げる。

天神店店長・林拳大さん(写真右)

1995年生まれ、福岡県出身。大阪のサロンで経験を積んだ後、福岡へ戻り株式会社アクアビテへ入社。現在は天神店の運営とスタッフ育成を担う。

―2017年にオープン、2019年からHOT PEPPER Beauty AWARDを連続で受賞されていますが、立ち上げ期にうまくいった要因は何だったと思いますか。

(大田原さん)最初から採用がとてもうまくいって、いいメンバーがそろっていたことでしょうか。

また少数精鋭で、空き時間を有効活用する意識があったことも大きかったと思います。

予約の間に時間が少しでも空いたらすぐスタッフで撮影したり、前日の段階で空きそうだったらモデルを手配して撮影したり、営業時間をフルに使って何かをやっていこうとしていました。

当時はInstagramがはやり始めた頃で、あるインフルエンサーの方が掲載してくれた僕たちのスタイルがバズったことがありました。

それをホットペッパービューティーに掲載したことが、新規のお客さまが増えたきっかけになったと思います。

―サロンページを見ると、高い技術力を打ち出しながらも、比較的通いやすい価格帯を維持されていますね。

(大田原さん)前職での経験も踏まえ、かなり意識して決めたところですね。

通いやすい価格帯でありながらも、技術やサービス、撮影へのこだわりなど、品質をしっかりと両立させたいと考えていました。

今振り返ると、そのバランスのよさがお客さまに伝わったことが、スタートダッシュにつながったのかなと思います。

―店舗ごとに打ち出しているメニューが違うのも印象的ですよね。

(大田原さん)エリアごとに求められているものが違うので、それに合わせています。

天神店はダブルカラーやハイトーンカラーなど、デザイン性の高い施術を中心に展開しています。

これは、もともとは集客目的だけではなく、採用面への影響も意識していました。

若い美容師はデザイン性の高い施術ができるサロンに就職したいと思う人が多いのではと考えたんです。

「ここで働きたい」と思えるような打ち出しを作ろうとしていました。

―博多口店はいかがですか。

(大田原さん)博多口店は、最初からヘアセットの需要を見込んでいました。

博多駅の周辺は結婚式場などのイベント会場が多いですし、九州各地や空港からもアクセスしやすい。

結婚式やライブなどでヘアセットを必要とする人が集まるということを認識していたので、立地選定の段階から戦略的に設計していました。

実際、新規のお客さまもとても多いですし、月にご来店いただくお客さまの半数以上はセットが目的かもしれません。

ーダブルカラーなど、技術力が必要なメニューを複数店舗で提供するために、教育面ではどのような取り組みをされていますか。

(大田原さん)教育制度はかなり重視しています。

毎月、自社スタッフが講師を務める社内セミナーを行っています。それに加えて、年に4回ほど、東京や大阪で活躍している美容師さんを社外講師としてお招きしています。

―社外講師はどのような方をお呼びしているんですか。

(大田原さん)以前はカラーなど技術で注目されている方をお招きすることが多かったですが、今は社内のレベルも上がってきています。

そこで、カットやTikTokに特化した方など、より幅広いテーマを扱うようになりました。

その時々のサロンの状況やスタッフの声、課題などを聞きながら選んでいます。

(林さん)サロンの閑散期は一般的にはモチベーションが下がりやすい時期ですが、こういったセミナーを組み込むことでそれも起こらずに済んでいますね。

―アシスタントからスタイリストへのステップアップは、どのように決めているのでしょうか。

(大田原さん)明確な基準で試験を行っているというよりは、柔軟に決めるようにしています。

そのスタッフと店舗の状況を見ながら、周りのスタッフにも相談してスタイリストになっていくイメージです。

―離職率も低いとうかがいました。スタッフが定着する理由はどこにあると思いますか?

(大田原さん)年間の離職率は5%を切っていると思います。

店舗が複数あるので、人間関係や働き方で合わないことがあれば、近いエリアで店舗異動が提案できるのも強みですね。

独立支援も含め、スタッフができるだけ長く働き続けられる環境は意識して作ってきたと思います。

待遇面でも、他社の求人情報を見ながら、できる範囲でよりよい条件に寄せています。

経営が成り立つことが前提ですが、できる限りスタッフに還元していきたいというスタンスです。

―林さんは、スタッフとしての目線もお持ちだと思います。GiseLをどういう職場だと感じますか。

(林さん)本当に働きやすいと思います。

給与などの待遇面だけではなく、人間関係や、スタッフを成長させてくれようとする姿勢を感じるところがいいですね。

売上が伸び悩んでいる時期でもセミナーなどで学ぶ機会を作ってくれますし、「一緒に成長していこう」という雰囲気があります。

―SNSやブログ、スタイル写真の投稿も非常に活発ですが、何か決め事はあるのでしょうか。

(大田原さん)実はほとんどないんです。

もちろん、発信をすればするほど集客につながるという事実は伝えています。

ただ、「毎月何件投稿しなさい」といったノルマを設けたことはないですね。

自分の発信が結果につながることを全員が理解しているので、自然と続けているスタッフが多いですね。

また、言っている手前、僕自身もやらないとな、ということで、積極的に発信しています。

それを見て動いてくれるスタッフもたくさんいます。

―クーポンも、かなり細かく活用されているように感じました。

(大田原さん)ベーシックな料金はそこまで頻繁に変えませんが、新規のお客さま用のクーポンなどは、ちょこちょこ変えています。

例えば、ベテランのスタッフが新店舗に異動すると、今度は若手が入客していかなければいけない。

そのタイミングでは選んでいただきやすいリーズナブルな価格設定にして、また新規のお客さまの数を増やしにいくことがあります。

逆に顧客が定着してきたり、歴の長いスタッフが増えてきたりしたら、提供している技術レベルに合わせて、少し価格を上げることもあります。

―林さんも店長として、そういった考え方を意識されているんですか。

(林さん) そうですね。若いスタッフには、「まずはお客さまに選んでもらえる状態を作ることが大事だよ」と伝えています。

SNSやブログもそうですし、会社が用意してくれた仕組みを活用しながら、自分でお客さまを増やしていく意識が大切だと思っています。

自分自身もそうやってきたので、店長としても同じことを伝えていますね。

―ここまでお話をうかがっていると、「スタッフが自然に動き出す」という文化を大切にされている印象があります。

(大田原さん) そうかもしれないですね。

あまり「こうしなさい」と決めすぎないようにはしています。

もちろん方向性は伝えますが、最終的には自分で考えて行動できる人の方が成長すると思っています。

だから、できるだけスタッフ自身が考えられる余白を残すようにしています。

―今後はどのような組織を目指していきたいですか。

(大田原さん)出店は、スタッフの成長やキャリアアップに応じて、ある程度続けていくと思います。

物販に特化したサロンやメンズサロンなども視野に入れています。

5年後、10年後も同じ速度で成長し続けるためには、少子高齢化や郊外の過疎化も考えなければいけません。

今は九州だけですが、今後は北上することも考えていきたいです。

中国、四国、関西など、これから伸びるエリアをリサーチして、エリアを変えても成功できる仕組みづくりに挑戦したいですね。

取材レポート

今回の取材で印象的だったのは、GiseLの取り組みが、決して「強いルール」によって成り立っているわけではないということでした。

ブログやスタイル写真の投稿をはじめ、スタッフ一人ひとりが必要性を理解し、自ら動く文化が根付いています。

一方で、それは決して「感覚任せ」ということではありません。

店舗ごとにエリアの需要を見極めた戦略を展開。

さらには社内外のセミナーを組み合わせ、スタッフが学び続けられる環境も整えています。

「強制しない」のに、スタッフが動く。
「自由」なのに、結果につながる。

その背景には、働きやすさを大切にし、スタッフの成長やキャリアを本気で考える姿勢がありました。

スタッフが前向きに働ける環境づくりを積み重ねてきたこと。それこそが、GiseLの強さなのだと感じました。