LGBTQ+のお客さまへの接客等を考えることで、「誰もが自分らしく美容を楽しむ、表現できる」そんな美容サロンを実現するお店づくりのヒントをご紹介します!
お客さま一人ひとりに寄り添いたいと思っていても、何気なく言ってしまった言葉や「当たり前」だと思っている環境が、意図せず誰かを傷つけ、お客さまの足が遠のく原因になっているかもしれません。
今回は、企業や美容サロン向けにインクルーシブな環境づくりに関する研修などを提供する株式会社wagamama社の下山田志帆さんと内山穂南さんにお話を伺いました(前後編)。
おふたりは「悩みを抱えていても、『自分が行ける場所ではない』と感じ、エステに行くこと自体を諦めている当事者も少なくない」と指摘します。
前編では、おふたりの話から、サロンに潜む“無意識の壁”に気づくことから始めましょう。今回は、おふたりがLGBTQ+当事者の方々にヒアリングした困りごとについてシェアしていただきました。
株式会社wagamama
共同代表 下山田 志帆(しもやまだ しほ)さん
1994年生まれ、茨城県出身。元プロ女子サッカー選手。慶應義塾大学卒業後、2017-19年はドイツ、2020-23年は日本でサッカー選手としてプレー。2019年に、日本の現役選手としては初めて、LGBTQ+当事者であることをカミングアウトしている。著書に『女子サッカー選手です。そして、彼女がいます(偕成社)』。NHK『虹クロ』メンター。「Forbes UNDER 30 JAPAN 2021」選出。
株式会社wagamama
共同代表 内山 穂南(うちやま ほなみ)さん
1994年生まれ、埼玉県出身。元プロ女子サッカー選手。早稲田大学卒業後、イタリアへ渡りプロサッカー選手として1年半プレー。2019年に帰国後、下山田さんと共に株式会社wagamamaを起業。自社ブランドOPTでは、「心身の課題とパフォーマンス」を切り口にセミナーを行うCARAVANプロジェクトを展開し、日本全国を行脚中(80クラブ以上/約2000名と連携)。また、一般社団法人Famiee代表理事、一般社団法人ATHLETE SAVE JAPAN理事も務める。
「彼氏さんとお出かけ?」その質問が、お客さまを戸惑わせる
サロンでの会話や何気ない環境が、お客さまに違和感を与えていることがあります。
例えば、お客さまとの会話の中で、スタッフが良かれと思って尋ねた「彼氏さん/彼女さんとお出かけですか?」という質問。これは、女性自認のお客さまに対して「彼氏さん」、男性自認のお客さまに対して「彼女さん」と質問している時点で、相手の恋愛対象が異性であることを前提としており、同性愛者の方などを戸惑わせてしまう可能性があります。
また環境面でも、お客さまが違和感を覚えることがあります。例えばカウンセリングの空間がその一つ。個室でないスペースでデリケートな体の悩みを話すことになり、「他の顧客に内容が聞こえてしまうのではないか」と不安に感じたという声もありました。お客さまが安心して話せる環境かどうかは、信頼関係を築くうえでの第一歩と言えるでしょう。

「行きたい、でも行けない」…トランスジェンダー当事者の切実な悩みと遠慮
特に、トランスジェンダー当事者の中には、エステサロンに通いたくても通えない、特有の悩みを抱えている方たちがいます。
例えば、トランスジェンダー男性(出生時に女性の性を割り当てられたが、性自認が男性である人)は、ホルモン治療の影響でニキビができやすくなったり、体毛が増えたりすることに悩む人もいます。
また、脱毛のニーズはあっても、
「戸籍上は女性だけど、女性専用サロンにはそもそも行きたくない」
「かといって、性別移行中(※)だから男性専用サロンにも行けない」など、
「自分が施術をお願いするのは迷惑なのでは」という遠慮から、通うことを諦めてしまうジレンマがあったと話しました。
またトランスジェンダー当事者の中には、他者からの視線に対して「否定的に見られるのでは」という心理的なストレスを抱える方もいます。
こういったケースでは、サロンを選ぶ際には「個室かどうか」もしくは「施術スペースがしっかり区切られているか」が、安心して過ごすための大きな判断材料になるでしょう。
また、そもそも当事者の中には、肌や体に関する悩みを「エステで解決できるという発想自体がない」という声もあり、サロン側がまだ出会えていないお客さまがいる現状がうかがえます。
※「性別移行」とは、トランスジェンダー当事者が自認する性別に沿った生き方を選択していく過程を指す言葉です。外見や服装、名前や戸籍上の性別、医療的な処置(ホルモン治療や性別適合手術など)など、取り組む内容やタイミングは人それぞれです。「性別を変える」「性別を決める」といった表現ではなく、すでにある性自認に合わせて社会的・身体的な調整を行うプロセスとして理解されることが大切です。

「女性専用」という言葉。サロンの意図と、お客さまの戸惑い
多くのエステサロンが掲げる「女性専用」「男性専用」という区分。これが、お客さまを迷わせてしまう壁になることがあります。トランスジェンダーの方は「(それぞれ治療の段階も異なるため)自分が自認する性を対象としているサロンに行っても良いのだろうか」と悩んだり、ノンバイナリー(性自認が男性・女性のどちらでもない人)の方は「どちらにも当てはまらない」と感じてしまうことがあるのです。
一方で、サロン側にも意図はあります。特に女性専用サロンでは、「女性が周囲の視線を気にすることなく、安心してサービスを受けられる場所を提供したい」というスタッフの気持ちも、当然尊重されるべきものです。
大切なのは、自店のスタンスをどうお客さまに誠実に伝えるか、ということです。「女性限定」という言葉が誰を指すのかを明確にしたり、対応が難しい場合には別の選択肢を示したりと、できることはあります。サロンとお客さま、双方にとってより良い形を考えていくことが求められます。

【後編】では、予約フォームの工夫やカウンセリングでの一言など、株式会社wagamamaのお二人が教える、明日からできる具体的なアクションをご紹介します!
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